南ア主脈単独縦走記【北部編】 

長浜寿一 

 

T.計画経緯 

日本アルプス主脈縦走を志して二年目になる。昨夏は北アルプス主脈縦走に16日間(移動・荒天停滞含む)を費やした。今夏の計画は南アルプス主脈縦走である。一気通貫で行うためには阻害要因があり、期間を2分割した。即ち、三伏峠で行程を北と南に分け、北部を前半、南部を後半に行くことにした。 

 ●当初計画前半(南ア北部)…8/14〜8/22 9日間) 

  入山地/夜叉神峠〜鳳凰三山〜甲斐駒・仙丈〜白峰三山〜塩見岳〜三伏小屋〜下山地/鳥倉登山口 

●当初計画後半(南ア南部)…9/1〜9/7 7日間 

  入山地/鳥倉登山口〜三伏小屋〜荒川三山〜赤石岳〜聖岳〜光岳〜下山地/易老渡 

 

U.当初計画の中断と後半計画の延期 

前半は、コースと日程に若干の計画差異が出たものの最後まで歩き終えた。しかし、後半の入山時に登山基地/畑薙第一ダム手前60q地点で居眠り運転事故を起こし(9月2日、午前4時50分)、登山を中止し帰宅した。車はフロント下部にかなりの損傷を受けたものの、幸い相手(人・物)がなく私自身も怪我がない状態で事なきを得た。その後の体調についても、事故以前と同じ状態で推移している。自らの不注意で多くの方のご心配をかけたことを本手記でお詫びしたい。 

前半で頓挫したために以下の実績記録は、前半(南ア北部)限定版である。 

 

V.南ア北部縦走 実績データ 

V―1 総括 

項  目 

項 目 詳 細 内 容 

山行形態 

無雪期単独行 

期 間 

9日間(2017/8/14〜8/22)…移動日を含む 

宿泊8泊 内訳 

車中1日+テント5日+営業小屋1日+非営業小屋1日 

最大負荷荷物重量 

21s=ベース17s+水3s(3?)+弁当2食分1s 

A 

正味山行日数 

8日間 

b 

平面距離  ※注1 

63.5q 

c 

積算標高差 ※注2 

7694m、8247m 

d 

1日平均歩行距離  

b÷a…7.9q 

e 

1日平均積算標高差 

c÷a…961m、1031m 

f 

1日平均行動時間 

7時間33分 

※注1・2とも、ヤマケイオンライン値使用。 

V−2.詳細データ 

8月14日(月) 晴&曇              【車中泊】大阪発甲府行夜行バス 

 

〔移動〕JR仁豊野=梅田スカイビルバス発着場21:00 

【コメント】平成10年〜20年まで大阪で勤務した。当時の大阪は、爆買いツアーに来た中国人観光客の姿を駅ホームで見る程度だった。その後約10年、今宵ターミナルになっているスカイビル内で飛び交うのは中国語と韓国語、自撮り棒を使うカップルの多さに驚く。 

8月15日(火) 雨。行動時間6hr25min、距離7.6q、累積標高+1292m−228m 

 

4:00甲府南口4:35=5:37夜叉神峠駐車場6:257:35夜叉神峠小屋8:00⇒9:45杖立峠9:55⇒11:55苺平12:05⇒12:40南御室小屋【泊】 

【コメント】バスから降りた途端に雨の洗礼を受けた。のっけからレインウェアを着る羽目になる。緩やかな稜線歩きが続くが、荷物が重く感じられ、ピッチが上がらない。鳳凰小屋まで行く予定だったが、この天候では無理なので南御室小屋で打ち切り、小屋の世話になる。登山客はテント場に一張と、小屋は熟年夫婦と私の三人だけだった。 

8月16日(水) 雨&曇。行動時間9hr20min、距離8.0q、累積標高+898m−909m 

 

南御室小屋4:45⇒6:10薬師岳小屋6:15⇒7:05観音岳7:15⇒8:50アカヌケ沢の頭8:55⇒9:05地蔵岳9:10⇒9:15アカヌケ沢の頭9:25⇒10:30高嶺10:40⇒11:30白鳳峠11:40⇒13:10広河原峠13:15⇒14:05早川尾根小屋【泊】 

【コメント】昨日に続いて今日も雨。地蔵岳のオベリスクが10分間ほど見えただけで、何も見えない。ただひたすら歩くだけの一日となった。会った登山者も単独行の若い女性一人(北岳山荘の従業員)のみ。宿泊地の早川尾根小屋は、予約時だけ小屋番が上がって来る無人小屋であった。雨露を凌げるだけの幽霊屋敷で一夜を過ごした。 

8月17日(木) 晴&曇、行動時間3hr25min、距離5.0q、累積標高+43m−958 

 

早川尾根小屋5:25⇒5:55広河原峠6:05⇒8:10広河原峠入口8:20⇒8:40広河原9:00?〔南アルプス市営バス〕?9:25北沢峠9:5010:00北沢長衛小屋テント場【泊】 

【コメント】当初計画していた早川小屋からアサヨ峰を経て甲斐駒に登り、北沢峠まで下るルートは時間不足でとても無理(歩行時間…11時間、11.5q)。アサヨ峰から仙水峠を下り仙水小屋までくらいがよいところだ(歩行時間…5.5時間、5.2q)。いずれにしても中途半端なので、今日は楽な方策を採り、休養日にした。早川尾根小屋から広河原峠を経て広河原に下り、10qの道をバスで北沢峠まで運んでもらった。今までの静かな山歩きから急激に変化し、広河原・北沢峠は驚くほどの殷賑ぶりである。テント場到着は10時。午前中は晴れていたので、二日間の雨で濡れた衣類を乾かした。 

8月18日(金) 雨。行動時間8hr40min、距離8.2q、累積標高+1144m−1144m   

 

北沢長衛小屋テント場3:45⇒4:15仙水小屋4:15⇒4:50仙水峠5:00⇒6:20駒津峰6:25⇒7:55甲斐駒ケ岳8:10⇒9:20駒津峰⇒9:25⇒10:20仙水峠10:30⇒10:55仙水小屋10:55⇒11:25北沢長衛小屋テント場【泊】 

【コメント】荷物はテント場に置き、軽装で甲斐駒に向かう。明るければ何でもない道なのだが、暗さゆえに仙水峠手前で道を見失い、30分近くさまよう。暗闇の登山ではよくあることだ。甲斐駒山頂まで行き、そそくさと引き返す。雷鳴が聞こえはじめた。雷鳴を聞いた登山者の多くは、駒津峰から引き返していた。11時過ぎにテント場に戻り、長衛小屋で名物の黒カレーを食べる。 

8月19日(土) 曇。行動時間6hr55min、距離10.3q、累積標高+1236m−1236m 

 

北沢長衛小屋テント場4:30⇒4:40北沢峠4:40⇒6:05大滝の頭(五合目)6:10⇒(藪沢小屋ルート)⇒6:25 藪沢小屋6:30⇒6:50馬の背ヒュッテ7:15⇒7:50仙丈小屋7:55⇒8:15仙丈ケ岳8:30⇒(小仙丈ケ岳ルート)⇒9:35小仙丈ケ岳9:45⇒10:25大滝の頭(五合目)10:30⇒11:25北沢峠12:15⇒12:25北沢長衛小屋テント場12:50⇒13:00北沢峠13:30?〔南アルプス市営バス〕?13:55広河原14:00⇒14:10広河原山荘テント場【泊】。 

【コメント】今日は北沢峠から仙丈ケ岳の往復だ。五合目から藪沢小屋ルートに入る。映画「君の名」の主題歌「黒百合の歌」で黒百合の存在を知り、実物を馬の背のお花畑で初めて見たのは20歳の時だった。天候は雨だったが、大感激したのを覚えている。雨にたたられた甲斐駒までの三日間より天候は少しマシだが、景観はイマイチだった。小仙丈ケ岳から日本標高トップ3(富士山・北岳・間ノ岳)を一望したかったのだが…。仙丈ケ岳を往復したあと、北岳の登山基地/広河原までバスで移動した。 

8月20日(日) 曇。行動時間10hr10min、距離7.6q、累積標高+1867m−490m 

 

広河原山荘テント場3:55⇒6:50白根御池小屋7:25⇒(草スベリコース)⇒9:55小太郎尾根分岐10:00⇒10:30北岳肩ノ小屋11:40⇒12:50北岳13:00⇒14:05北岳山荘テント場【泊】 

『コメント』7時には稜線に雲がかかりはじめた。せめて今日ぐらいは晴れて欲しかったと思うが、その願いも届かない。肩の小屋で大休憩を取り、北岳に向かう。北岳山頂の滞在時間は僅か10分、天候が悪いことの裏返しだ。山頂からの大展望はなく、踵を返して北岳山荘テント場に向かった。テント場からぼんやりと富士山が見えていたのが救いであった。あっそうそう、北岳は三等三角点なんだね(間ノ岳も同様)。 

8月21日(月) 曇。行動時間10hr10min、距離10.1q、累積標高+876m−2073m          

 

北岳山荘テント場5:40⇒6:25中白根6:30⇒7:40間ノ岳8:00⇒9:20農鳥小屋9:35⇒10:35西農鳥岳10:40⇒11:35農鳥岳11:4012:20大門沢下降点12:3015:50大門沢小屋テント場【泊】 

【コメント】中白根から北岳の大展望を楽しみたかったが…。農鳥と塩見が見えている程度で、荒川三山より南はまったくダメ。8時前にガスがかかってしまう。明日も天候が悪いと報じていたので(実際は好天だった)、当初目指していた三伏峠まで行く気がしなくなり、農鳥岳から大門沢に下る。悪路極まりなし。だいぶ疲れていたのか休憩が増えていた。小屋まで2時間半のコースタイムを50分超過していた。 

8月22日(火) 晴。行動時間3hr20min、距離7.6q、累積標高+338m−1209m 

 

大門沢小屋テント場7:15⇒9:20吊橋9:20⇒10:10奈良田第一発電所10:15⇒10:35奈良田13:50?〔早川町乗合バス〕?JR下部温泉駅?JR静岡?JR姫路?JR仁豊野 

【コメント】下界に下りると不思議に晴れる。皮肉極まりなく思うがこれも人生、致し方なし。「奈良田の里」で9日ぶりに入浴する。檜風呂で快適そのもの。入浴後、裏手にある「白旗史朗記念館」で写真を見る。笊ケ岳から見た富士山の写真に感動する。この山行の続きは笊ケ岳からだなと決めてしまう。  

 

W.今回山行の問題点 

 昨年もイマイチの天候ばかりであったが、今年はさらに恵まれなかった。山行日数8日中、晴れた日は一日もなかった。荷物の重さと気分的なくさりが加わって、元々計画したルートを安易なルートに変更したことが反省の第一に挙げられる。例として、@早川尾根小屋から早川尾根を経由して甲斐駒ケ岳まで行かなかったこと、A仙丈ケ岳から白峰三山に行くのに仙塩尾根を経由せず、一度下山して広河原から入ったこと、B農鳥岳から三国平経由で仙塩尾根に入らず、大門沢に下山したことである。最も問題であったのはBであろう。確かに天候もイマイチであった。昨年ならあの程度の天候なら計画どおり進んでいたであろう。計画は安易に変えてはならない。予備日は十分にあるのだから、天候と相談しながら、待機してでもビバークしてでも計画どおり進むべきだった。74歳が近い、いつまでも元気なわけがない。安易に計画を変更してしまったということは、心・身体が転換点に差し掛かっている前兆かも知れない。 

 もし、Bを計画どおり進んでいたなら、居眠り運転事故はなかった。なぜなら前半の計画下山地/鳥倉登山口から入るためには、絶対に自分の車を使わなかった。鹿塩の民宿に前泊し、そこから自家用で鳥倉まで送ってもらうしか手がなかったからである。自分の車で入ろうと思ったのは、9月になって公共機関が登山口まで入らなくなったことを受けての判断であった。下山地を奈良田に変更したが故に、後半の入山地を駐車して周回できる場所/畑薙第一ダムを選択してしまったのである。 

人生僅かなことで暗転・好転することを学んだ。まさに一寸先は闇である。 

    

X.山行雑感 

1.三角点・頂上標識の周辺にいつまでもいてはならない 

 天候が悪い時の山頂はすぐ立ち去るが、天候がよければつい長居しがちである。長居は構わないのだが、山頂標識や三角点の周辺に荷物を置き、いつまでもたむろしている御仁たちには困ってしまう。グループ登山者にその傾向がみられる。本人たちは他人の邪魔になっていることに気づいていないことが多い。 

2.顧客第一ですか?  

2−1.山梨交通の例 ? 接続時間が考慮されていないダイヤは問題がある。 

下表を参照願いたい。一目瞭然でJRからバスへの接続時間がないことが分かる。少し待つのかと担当者に訊いたが、待たないという。企業としての感覚を疑ってしまう。 

JR仁豊野発 

JR甲府着 

接続時間 

甲府駅南口バスタ-ミナル発 

5:35 

11:05 

なし?乗換不可能 

11:05 

6:08 

12:05 

なし?乗換不可能 

12:05 

8:35 

14:02 

3分?乗換不可能 

14:05 

2−2・北沢長衛小屋の例 

8月18日(金)、雨の中を暗いうちから甲斐駒へ登り、昼前にテント場に戻った。その後、昼食を食べるために長衛小屋に行った。雨はやんでいたが、いつ雨が降り出すか分からないような空模様であった。雨が降り出したら小屋泊に変更しようと思い、小屋番に「今からでも今日の宿泊予約はできますか?」と訊いてみた。「部屋は空いているが、食事提供はできません」という。15時を過ぎているのならともかく、時刻は12時前だ。予約客専門の都会のレストランでもあるまいし、最近の山小屋はどうなっているのかと思う。 

2−3.北岳小屋の例 

8月20日(日)、北岳を登り終え、北岳山荘テント場に向かう途中だった。「ブチッ!」と何かが切れた音がした。背負子のショルダー紐を留めている金具が外れたのだ。ボルトは残っていたが、ナットがなくなっていた。家を出る前に点検し、締めていたのだが…。登山を中止し、下山しなければならないトラブルが発生してしまった。幸い北岳山荘が近い。運がよければ、工具箱に同サイズのナットがあるかも知れない。とりあえずは、ザックに背負子を紐で括り付け、北岳山荘に行った。受付で背負子のトラブルで困っている旨を話し、代替品がないか訊いてみた。若い男の小屋番から、「探してみましょう」と返事があり、代替のナットを探してきてくれた。あとの山行が続けられるようになったので有難かった。感謝!感謝! 小屋と対応した人によっては、対応が変わっていただろう。 

3.携帯電話が命を救うこともある 

私はauを使っているが、今回山行において繋がったのは南御室小屋周辺だけであった。その他の場所ではまったく繋がらず、連絡が必要な時は山小屋の衛星電話を使った。南ア北部山中においても「NTTドコモは通話可能」の看板が多く見受けられた。NTTドコモが総務省から架線が難しい山間部へ繋がることを要求され、それに応えた証しであろう。。 

4.不便になった南ア 

4−1.テント場の減少 

@仙丈ケ岳にテント場がない。 

藪沢小屋・馬の背ヒュッテは土地が狭隘なので分かるが、仙丈小屋は広いのに何故テント場がないのだろうか? 鳳凰三山の小屋周辺と環境は変わらないと思うが…。 

  A仙塩尾根南部からテント場が消えた。 

   北荒川岳管理小屋付近と北俣岳雪投沢がテント指定地から外されている(環境問題?)。蝙蝠尾根から二軒小屋方面に入る場合、熊ノ平小屋テント場からでは一日では行けなくなっている。 

4−2.大井川鉄道〜畑薙第一ダム間を結ぶ公共機関がなくなった 

  畑薙第一ダムに入る方法として、東京方面からは私鉄バス会社の直通便があり問題はない。関西から入る場合は静岡から「しずてつバス」に乗るしか方法がなくなった。昔は、大井川鉄道の井川・千頭から畑薙第一ダムに行くバスがあったのだが…。南アのみならず、公共機関を使った登山はマイカー増のあおりで計画しづらくなっている。 


  

  


 

 

例会報告


 

 













































































































































































































































































































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