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Miles Davis / Dark Magus

曲目 参加ミュージシャン
1. Dark Magus-Moja (part 1) (Turnaroundprase / Tune in 5)
2. Dark Magus-Wili (part 2) ((unidentifed) / (unidentifed))
3. Dark Magus-Tatu (part 3) (Prelude / Calypso Frelimo)
4. Dark Magus-Nne (part 4) (Ife / Turnaroundphrase)
Miles Davis (tp, org)
Dave Liebman (ts, ss)
Azar Lawrence (ts)
Reggie Lucas (g)
Pete Cosey (g)
Dominique Gamount (g)
Michael Henderson (b)
Al Foster (ds)
Mtume (perc)
録音年:1974  
 本作は、マイルスミュージックの中でも、最も濃厚かつヘビーな部類に入る。はらわたをえぐり出すようなグチャグチャのリードギター、錆びたナイフを無理矢理叩き付けるようなリズムギターのカッティング、黒魔術的なオルガンサウンド、地を這うベースとドラム、そしてこの強烈に濃くポリリズミカルなサウンドから脳天を直撃する雷光の如く飛び抜けるマイルスとリーブマン!もうこれ以上のものはない。しかしホントーにマイルスという人は凄い。こんな音楽はマイルスしか作っていない。菊池雅章氏は1980年に"Susto"、"One Way Traveller"という2つの作品を、「もしマイルスがこの路線の音楽を80年まで開拓し続けたらこうなったであろう」というコンセプトの下で制作したようだが、あの菊池雅章氏の作品でさえ、マイルスミュージックの足下ぐらいにしか届かなかった。1998年にはHenry Kaiser & Wadada Leo Smithという人が"Yo Miles!"というアルバムでElectric時代のマイルスサウンドの再現を試みたが、ほとんど表面をなぞっただけの演奏に終始している。もしマイルスへの敬意がホンモノだったら、あんな中途半端なアルバムは発表できなかったはずである。
 本作の象徴となる最初の見せ場は2曲目、Wiliの中盤13分頃から始まる。エレクトーンにはボタン一つで"Cha-Cha"とか"Samba"とかのリズムを鳴らす機能が付いているが、それを高速に鳴らして何のリズムやらわけがわからん状態になった音を、バックに流れるリズムとは無関係に出したり引っ込めたりし始める(最初の見せ場ではバックはリズムなしだが)。これが最高の緊張感を生み出す。エレクトーンをさわって遊んだことのある人なら、「あの音、こんな使い方もあるのか!!」と驚くと同時に総髪が逆立つ戦慄を覚えること間違いなし。この「超高速リズムマシーン」は3曲目、4曲目でもちょくちょく顔を出す。マイルスはどうしてこれをその後のアガルタ・パンゲアではやめてしまったのか。このサウンド、及びリーブマンの怒りのサックスがあるからこそ、本作はマイ・フェバリット・マイルス・No. 1なのである。もちろん全体的にダークで重く濃厚であることも好きな要因の一つだが、それを象徴するのが「超高速リズムマシーン」なのである。
 さて、次はリーブマンを褒めにかかろう。本作参加のサックス奏者はリーブマンともう一人、エイゾー・ローレンスという人がいる。このローレンスが強烈にヘタクソで、よくもこんな音が混じっている音源をそのまま発表しましたね、とあきれるくらい、そのプレイは稚拙である。それと好対照に、リーブマンの方は血管がブチ切れんばかりの強烈なブローを全曲にわたって聴かせてくれる。ローレンスはCDで言えば2枚目(3、4曲目)に参加しており、ここではバトル、というより、野獣とナマケモノの掛け合いを聴くことが出来る。3曲目は"アガルタのプレリュード"で始まり、冒頭から張りつめた空気が8分20秒まで維持される。そしてそこでローレンスのテナーがニュルニュルッと突入、緊張の糸を思いっきり引きちぎり、音楽はいったん糸の切れた凧状態となる。「オイ、あの男、一発ぶん殴ってこい」とマイルス親分はリーブマンにアゴで命令したのだろう、約40秒後の9分頃からリーブマンが雷のようなブローでカツを入れる。ここから1分半の、2テナーによるバトルにならないバトルが、スリリングこの上ない。リーブマンのアタマからは赤い湯気がのぼっていたに違いない。そして10分35秒からは「もうええわ、好きにせえや」とあっさり諦めたのか、リーブマンが引っ込み、その後約5分30秒はローレンスの独壇場、またまた糸の切れた凧が迷走する。17分10秒、マイルスがヌッと登場、やっと緊張感が戻ってくる。
 4曲目前半の"Ife"では、リーブマンの最高のスパニッシュフレーズが聴ける。これはリーブマンのベストプレイに違いない。そしてこのスローテンポの"Ife"では2曲目でも登場した「超高速リズムマシーンサウンド」が大活躍、最高に緊張感をはらんだバラードに仕上げる。ギターやオルガンによるノイジーでアブストラクトな効果音も、効果音という領域を越え、それだけで恐ろしいくらい殺気をはらんでいる。16分過ぎ、曲は"Turnaroundprase"に雪崩れ込むが、ここで再びローレンスが登場、今度は一人で異次元空間を彷徨っている。今度、バックでカツを入れているのはノイジーなギターだが、彼にはそんなものは通用しない。20分過ぎ、ローレンスがやっと表舞台から降り、バンドは一気に混沌の美学を極めにかかる。
 本作、もしローレンスがいなければ世評はもっと高かったに違いないと思うと、悔しくてしょうがない。「マイルスのオーラが全体を支配し、ローレンスのサックスさえもが異物として機能している。」との世評もあるが、異物は異物、ない方がいいに決まっている。しかし、一応ちょっとだけフォローしておくと、彼が緊張の糸をほぐしてくれるからこそ、何度聴いても飽きない作品であり続けている可能性も否定できない。(あまりフォローになっていない?)

 


2003/05/31 修正