Fure-8  2011 
初秋のスイス山歩き  11月 
  会員 市川靖子   

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マッターホルン      

今年も9月13日(火)から25日(日)まで娘と二人で独自に計画を立て、スイスの山を歩いてきた。16回目となる。世界的な異常気象でスイスも8月までは涼しく9月になって急に暑くなり、やっと夏が来た感じがする、とお店の人が話していた。

初日の朝、気温6度。ツェルマット泊。ホテルのバルコニーに出ると、朝日に輝いて赤く染まった「モルゲンロート」のマッターホルン(4478m)が目の前で迎えてくれた。雲ひとつない青い空にどっしりと立つその雄姿は何ものもよせつけない大きな怪物のようだった。  
 <美しい湖 ステリゼー>
体を慣らすため初日は軽く歩くことにした。ツェルマット(1620m)から地下ケーブルとゴンドラリフトを乗り継いでブラウヘルト(2571m)へ。そこから歩いて美しい湖ステリゼー(2537m)と氷河を見に行くことにした。白い雪を被ったマッターホルンの鋭い三角の頭が紺碧の空を突き刺している。裾野まで見えてその大きさに圧倒された。爽やかな風・澄んだ空・マッターホルン・・・これぞスイス・・・快適なハイキングだった。
   美しい湖ステリゼー
道は下り坂だが広く歩き易い。まもなくステリゼーに着く。鏡の様に「逆さマッターホルン」が湖一面に映し出されていた。だがさざなみが立つと一瞬にして消えてしまう。逆さマッターホルンもいくつか見たが、この湖からの景色は最高だと思う。腰を下ろして逆さマッターホルンを心ゆくまで眺め、フルーアルプのレストラン(2606m)を目指した。上り坂だが道は歩き易くたいしたことはないのに、なぜか息はハーハー、心臓がドキドキ。そうか、ここは2600mの地点。昨日スイスに来たばかりで、体が高度に慣れていないからだと気付いた。高山病になっては大変なのでゆっくり歩いた。 レストランで昼食後、フィンデル氷河を見に行った。昔、氷河の流れによって削られて積もった土砂が、氷河の両側に土手のように連なったモレーン。それは山のように高く急で登るのは大変だった。モレーンの上は人が一人立てるくらいの幅しかない。一瞬足がすくんだ。足下には巨大な氷河の先端が見えた。 そこから流れ出した水は川となり、ザーッと大きな音を立てて勢いよく流れていた。川沿いを歩いている人が豆粒ほどに小さく見え、氷河がいかに大きいかが分る。モレーンの上からの急な下り坂は狭く、小石で滑り易いので一歩一歩慎重に下った。美しい湖、モレーン、氷河・・・雄大な自然を味わった初日だった。 
 
 山羊さんと歩く  フィンデル氷河
 
<マッターホルン氷河トレイルを歩く>
今日も快晴。朝起きるとすぐにバルコニーに出て、マッターホルンのご機嫌を伺う。今日も朝日に輝くマッターホルンが美しい。ゴンドラリフトに乗ってトロッケナーシュテーク(2939m)へ。ここからマッターホルンに向かってシュバルツゼー(湖)(2583m)まで歩くことにした。山は向きによっていろいろな形に見えるが、ここからのマッターホルンは正三角形の姿をしている。壁が切り立っているためか、雪はほとんど付いていなかった。
 
   氷河トレイル
登山家がこの壁を登るのは大変だろうな広いガレ場の中の道を下る。小さな氷河湖が点々とあった。左側にテオドール氷河の端を見ながら三角のマッターホルンに向かってひたすらガレ場を下る。マッターホルンに近づくにつれて山が上からグーッと迫り、すごい迫力。マッターホルンの足下に着くと、山肌に沿った急な登山道や、以前に登ったことがあるヘルンリヒュッテ(3279m)が見え、あんな高い所まで登ったのだと感激!山道はまだまだ続き、急な坂を息を弾ませながら一気に登った。キツーイ! やがて眼下に目的地の湖が見えた時はホッとした。
 
   
 ガレ場を歩く  ケルンと氷河

<小さな村ツムットを訪ねる>
登山基地の村、ツェルマットのはずれから林の中の山道をただひたすら登っていく。石の屋根の可愛い家があったり、草原にマーモット(山岳地帯に住む大型のリスのような動物)が走っていた。夏には花を咲かせた草花が初秋の今は赤い実をつけていたり、綿毛を飛ばしたりしていた。長く続く登り坂はきついが初秋の風はさわやかだった。
緑の草原に走る道を行く。ツムットはもうすぐだ。ふと振り返ると長い裾の白いワンピースを来た女性が二人ともう一人女性が後からついて来る。白いロングドレスにリュックを背負い、登山靴。変なスタイル??? 胸には十字架のペンダントが・・・声をかけてみた。「シスターでいらっしゃいますか?」「ええ、そうよ。こちらは友達なの。」とニコニコしながら答えてくれた。ドイツの方で休暇を利用してスイスの友達を訪ね、一緒にハイキングをしているとか。一緒に写真を撮らせてもらって別れた。草原の中を登っていく三人。途中で足を止めては、私達に手を振ってくれた。二度も三度も。私達も両腕を大きく伸ばして手を振り返えした。やがてその姿は小さくなり、緑の草原の中に白いドレスが消えていった。心洗われる出会いだった。あの上品で穏やかな笑顔が今も忘れられない。
ツムットのレストランで昼食。席に着くとウェイトレスのお姉さんがやってきて、「あのー。ドイツ語のメニューしかないんですけど・・・ドイツ語、わかります?」と聞くので、「ドイツ語? わかりません。日本語のメニューありますか?」と言った。すると、隣の席でワインを飲んでいたドイツ人一家とウェイトレスさんがワーッと面白そうに笑った。「そんなのあるわけないでしょ!」と言わんばかりに。するとウェイトレスさん、ドイツ語のメニューの初めから終わりまで一生懸命に英語で説明してくれた。私は日替わりスープ(パン付き)とチーズののったミックスサラダ(これがすごい大盛り)を注文した。ヤギのチーズは格別の味。美味しかった!支払いの時、娘が「ゼー;Sehr グート;gut!」(とても美味しかったですよ!)とドイツ語で言ったら、ウェイトレスさんは本当に嬉しそうにニコッと笑った。隣席のおばちゃんは、「シュプレッヘン;Sprechen ジー;Sie ドイチュ;Deutsch?」(ドイツ語、話せるのね?)と言ってくれた。必要な単語や片言のドイツ語はいつの間にか覚えてしまった。それを使うととても喜ばれる。大切なのは心と心のつながりだと思った。
   
 ツムット村  ドイツのシスター
<雪の中のお城> 
昨夜からの雨は雪に変わっていた。朝、部屋の前のバルコニーに出ると一面の銀世界。山も村もみんな真っ白。寒くて外に立っていられない。まもなく霧も出て何も見えなくなってしまった。最悪だ。これでは初秋どころか初冬だ。こんな時はどうしようもない。ホテルの部屋に閉じこめられて時間をもてあます。お昼近く、隣村を目指して歩くことにした。
雪と霧で真っ白の中を歩いた。
・・・雪は降る。シンシンと。静かだ。
 
 
  雪の中のお城 

誰もいない・・・すると、突然霧の中から「モ〜〜〜〜〜」、そしてカランコロンとカウベルの音が・・・白い霧を透かして見るとすぐそばで牛が草を食べているではないか。道のすぐ脇は牧場らしい。こんな寒い雪と霧の中でも牛は草を食べている。また少し行くと今度は羊が寒そうに固まっていた。温かいお茶を飲もうとレストランに入る。お客は地元のおじさん一人だけ。ごつい顔のレストランのご主人と奥さんが愛想良く迎えてくれた。「この時期に雪が降るなんて珍しいよ。冬には1,2m位積もるけどね。」と話していた。「どこか行く所ないかしら?」と尋ねると、「博物館(ヴィラカッセル)があるよ。」と教えてくれた。そこで、教えてもらった道を歩き始めたのだが、甘くはなかった。急な登りのぐちゃぐちゃの山道を歩かねばならず、雪はますます降ってくる。霧で上の方は霞んで見えないし人も歩いていない。どこ迄登って行ったらいいのかと不安になった。まぁ、ここまで来たんだ。前進あるのみだ。更に雪道を登り続けた。すると、銃を肩に担ぎ、双眼鏡を首からさげた男の人が下りて来た。声をかけると「鹿を撃ちに行ったけど、今日は捕れなかったよ。鹿は食料にするんだ。」と残念そうに話していた。スイスの狩人さんだった。
空からヒラヒラと止めどもなく舞い落ちる雪の中に、突然幻のように可愛いお城が現れた。ヴィラカッセルだ!まるで絵本の一ページを見ているようだった。こんな山の上に立派な建物をどんな人が建てたのだろう。中は氷河についての博物館とレストランになっていた。その日は一日中、雪は降り続いていた。
   
霧の中の牛  霧の中の羊  

<さて、雲の上は?>
リーダーアルプミッテ(1905m)泊。快晴の朝。ホテルの部屋からは白い雪を被った山々の連なり、そして遠くに小さくマッターホルンが見えた。ここからベットマーアルプ(1950m)まで電気自動車の走る道を歩いた。
 
   雲の上は快晴
 朝の心地よい、さわやかな風をうけて、登りだが足取り軽く楽しいハイキングだった。ところがお昼近くになって、いつの間にか空は一面厚い雲に覆われて暗くなってきた。これでは山の上に行っても景色は見えないし、歩けないだろうと小さな教会を見たりして時間をつぶしたが、相変わらず雲は空一面を覆ったまま動こうとしない。ここにいても仕方がないので、とりあえずゴンドラリフトに乗ってベットマーホルン駅(2647m)のレストランで昼食をとることにした。ゴンドラリフトは崖にぶつかりそうになりながら登っていきヒヤヒヤした。間もなく雲の中に突っ込むと真っ白で何も見えなくなってしまった。このまま上までいくのかと諦めていた矢先、一瞬にしてパーッと明るくなり別世界が広がった。 雲を通りぬけた瞬間、そこは快晴。信じられない。紺碧の空、美しい山々そして、足下には白い雲のじゅうたん。この雲が上空と下界を分けていたのだ。フワフワの綿のような雲海。その上で大の字になって寝たらいい夢が見られるだろうなぁ。
 山肌に突き出た丸い形のレストランは昼食時とあって混雑していた。みんな雲の上は快晴だと知っていたのだろうか? 昼食をすませアレッチ氷河を眺めてから、ベットマーアルプまで標高差約700mを下る予定だったが、すぐ足下には相変わらず厚い雲が居座っていてお先まっしろ。何も見えない。おまけに誰も歩いていないのだ。道に迷わないかと不安になった。ともあれ行ってみるか。「前進あるのみ」だ。
 
下り始めて間もなく雲の中に突っ込んだが、意外に足元は見えていた。白い霧の中、岩場の下りが続く。どこまで行っても岩だらけ。 こんな岩場に羊が数頭現れた。なにやらホッとする。次第に雲もなくなり下山してベットマーゼー(湖)(2006m)の畔に着いた時にはすっかり晴れ上がっていた。雲の中を上がったり、下りたり・・・自然の妙味・・・面白かった。
 
   岩だらけの道

<トムリスホルン(2129m)に立つ>
ルッツェルン泊。世界一の急勾配、最高で水平に1000m進むと480m上がるというピラトゥス登山鉄道。赤い、可愛い電車が断崖絶壁にへばりつき急斜面をゆっくりよじ登っていく。スリル満点だ。終点には大きな山岳ホテルが建っている。そこから断崖にへばりついた細い登りの道を歩く。山側は壁、反対側は切れて谷底まで丸見えでこわい。落ちたら大変だ。さすがに鎖が張ってあった。向かい側の山肌を、先程乗ったおもちゃのような赤い電車がゆっくりと登っていくのが見えた。澄んだ空、連なる山々、その下に雲海が広がる絶景を眺めながら、休みなく登り続けた。頂上近くは岩の歩きにくい狭い道となったが、なんとかクリアー。頂点に立って360度見渡した時の達成感 !!!何と表現したらよいのだろうか? 頭にぐるりと目がついていたらこの大パノラマを一遍に見ることが出来るのに。眼下の景色を眺めていると、鳥になって空を舞っているような気分になる。鳥達はこんな景色を見ているんだ。頂上は細長く狭かったが、人は少なくゆっくりできた。一人のおじさんが「向かいの急な崖にシュタインボック(鹿の仲間)がいるから見てごらん。」と言って双眼鏡を貸してくれた。見ると崖の日当たりのよい狭い場所に3頭。2頭は鋭く曲がった立派な角をもっていた。
 下りも又赤い電車に乗った。後続の電車が上から落ちてくるように見えた。

 

<トムリスホルン(2129m)に立つ>
ルッツェルン泊。世界一の急勾配、最高で水平に1000m進むと480m上がるというピラトゥス登山鉄道。赤い、可愛い電車が断崖絶壁にへばりつき急斜面をゆっくりよじ登っていく。スリル満点だ。終点には大きな山岳ホテルが建っている。
 
 
   急勾配を登る
 そこから断崖にへばりついた細い登りの道を歩く。山側は壁、反対側は切れて谷底まで丸見えでこわい。落ちたら大変だ。さすがに鎖が張ってあった。向かい側の山肌を、先程乗ったおもちゃのような赤い電車がゆっくりと登っていくのが見えた。澄んだ空、連なる山々、その下に雲海が広がる絶景を眺めながら、休みなく登り続けた。頂上近くは岩の歩きにくい狭い道となったが、なんとかクリアー。頂点に立って360度見渡した時の達成感 !!!何と表現したらよいのだろうか? 頭にぐるりと目がついていたらこの大パノラマを一遍に見ることが出来るのに。眼下の景色を眺めていると、鳥になって空を舞っているような気分になる。鳥達はこんな景色を見ているんだ。  
   雲海の上を行く
頂上は細長く狭かったが、人は少なくゆっくりできた。一人のおじさんが「向かいの急な崖にシュタインボック(鹿の仲間)がいるから見てごらん。」と言って双眼鏡を貸してくれた。見ると崖の日当たりのよい狭い場所に3頭。2頭は鋭く曲がった立派な角をもっていた。
下りも又赤い電車に乗った。後続の電車が上から落ちてくるように見えた。 

<出会い>
今回も多くの人々に出会った。特に、スイスはいろいろな国から人が集まっているから面白い。ハイキングではほとんどの人が「コンニチハ」と挨拶してくれた。ご主人が初めてマッターホルンを見て感激したというスイス人夫妻。私達が富士山によせる気持ちと同じように、マッターホルンはスイスの人にとっては憧れの山なのだ。富士山の話をして日本で一番高い山で3776mあると言ったら、「あー。あのフジサンね。」とご存知の様子。「でもちっちゃな山なんだね。」と言われてしまった。スイスには4000m級の山が100座もあるというから富士山なんて小さな山なのだ。別れ際に「日本は原発で大変でしょう。お大事に。」と気遣ってくれた。
 

 ある日の朝食後、コーヒーを飲んでいたら可愛いウェイトレスさんが遠慮がちにやって来て、単語を並べただけのたどたどしい英語で話しかけてきた。小さな紙を出して自分と母親の名前を日本語で書いて欲しいという。そこで「コンスエラ こんすえら」「パオラ ぱおら」とカタカナとひらがなで書き、一文字ずつ読み方も教えてあげた。娘が美しい和紙の折り紙で折った鶴をあげると目を輝かせて嬉しそう。緊張がとけてホッとしたらしく、可愛いらしい笑顔をみせた。「折り紙外交」だ。名前を書いた紙と折り鶴を大事にかかえてイタリア人のコンスエラさんは戻っていった。
文法なんてどうでもよいのです。その気になれば、単語の羅列でも気持ちは通じますよね。「コンスエラさん。お母さんによろしくネ。」

ある日の夕食で、若いウェイターさんがやって来て日本語を知っていると言って、突然、「お兄さま、おばあちゃん、じじい、アホ、バカ、コノヤロー」と得意気に言ったので大笑い。日本のマンガが大好きで、「NARUTO(ナルト)」や「ONE PIECE(ワンピース)」を読んで日本語を覚えたそうだ。「黄色いくちばしの黒い鳥(カラスのことらしい?)がやって来てアホーアホーと鳴きながら飛んで行くんだよ。」とマンガの話で盛り上がった。「ラーメン食べたいんだ。」と言いながら指をパチンとならして残念そうな顔をしていた。日本語を教えてほしいと言うので、日常使いそうな会話をローマ字で紙に書いてあげた。おせんべいとガム、そして小梅の梅干をあげると、ちょっとかじって「死なないよね。ウウウ・・・」と言いながら倒れるまねをしていた。でも「結構いけるよ。」と言って全部食べてくれた。ポルトガルから働きに来ているという陽気なイケメンの若者だった。翌朝、彼の弟が「兄からです。」と手紙をもってきた。そこには昨夜のお礼と住所、名前が書かれていた。帰国したら手紙を出してみよう。 

 スイストレッキングも16回目を終えてホッしている。今年も雨の日も雪の日も一日も欠かさず歩いたが、そろそろ足腰が磨り減ってきた。いつまでもつか?更に筋力アップに励まねば。友人の応援に支えられて20回達成を目指している。
これからも「鎌倉歩け歩け」でガンバリまぁーす!!! 
     
 かぼちゃの飾り 道しるべ   おおきなお乳