
s24 暮坂峠から沢渡温泉
----若山牧水の歩いた道---
(歩程約1時間30分、ランクA) マップ
上野の草津の湯より 沢渡の湯に越ゆる路 名も寂し暮坂峠
若山牧水『枯野の旅』の一節である。
牧水は大正11年10月20日、花敷温泉を夜明けとともに立ち、
六合村の小雨から暮坂峠を越え沢渡温泉、そして四万温泉へと下った。
今年は牧水没後80年になる。こよなく旅と酒を愛した牧水の足跡を辿ろうと、秋の暮坂峠を越えてみた。案内役は牧水歌碑保存会副会長の中沢久吉さん。小学校の入り口にある<おもはぬに村ありて名のやさしかる 小雨の里といふにぞありける>の歌碑の前で行程の説明をいただき出発する。

牧水歌碑前で案内の中沢さんから説明
紅葉の盛りにはまだ1週間ほど早いそうだが、峠に上るにつれて黄色や紅に色づいた木々が増えてきた。暮坂高原にある暮坂牧水公園「花楽の里」で休憩をとる。ここは自然とふれあい、花を楽しむ体験型の施設だそうだ。館内には牧水ゆかりの色紙や、尋常小学校の卒業証書などが展示されていた。

「花楽の里」で牧水ゆかりの展示品を見る
ここから少し峠に寄ったところに花敷温泉への別れ道がある。『みなかみ紀行』によれば、「小さな道標が立ててある。曰く、右沢渡温泉道、左花敷温泉道」と書かれた、古ぼけた道標のあった場所である。今は<夕日さす枯野が原のひとつ路 わが急ぐ路に散れる栗の実>ほか一首が刻まれた歌碑と石の道標が立っている。

「右沢渡温泉道、左花敷温泉道」の道標
やがて標高1086mの暮坂峠についた。峠の茶屋の煙突から白い煙が暖かそうに立ちのぼっている。牧水像の前で中沢さんに『枯野の旅』の詩を朗読していただく。抑揚のある寂びた声が、牧水の流浪する心を感動的に詠いあげてくれた。

暮坂峠の牧水像 (碑面は「枯野の旅」)
峠からわずかな距離だが「牧水旧道」を歩く。86年前の暮坂峠道を、ほんのわずかだが、辿ることができたようだ。ひなびた沢渡温泉街をブラブラ歩き、四万温泉へ向かう。いつもの山歩きとは違い、汗もあまりかかなかったが、それでも温泉に体を沈めると、旅を終えたという気持ちになる。

牧水旧道を歩く
<白玉の歯にしみとほる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりけり>。牧水の心に背いてしまったが、仲間たちと賑やかな湯上りの、秋の夕べの酒を楽しんだ。
あかあかと秋の夕日が山々の頂を染めはじめるころ、四万温泉をでる。農家の庭先にたわわに実る柿や燃えるような真紅のサルビアに、深まりゆく秋を感じた。夕空に榛名山が黒いシルエットとなって浮かんでいた・・・。
幾山河こえさりゆかば寂しさの はてなむ国ぞ けふも旅ゆく
平成20年10月19日(日)
(文、写真:小林利秋、ブログ「山小屋の灯」から要録)