
No.364 美ヶ原と木曽駒ケ岳
---夏山アルプスの展望を楽しむ---
(歩程約8時間20分、ランクB3)マップ
8月8日(金)美ヶ原
美ヶ原に扉峠から茶臼山をへて登った。紺碧の夏空が大きく広がり、草原の緑が爽やかな風に波打っている。登山道は露に濡れた笹が繁り、ところどころでは背丈を越えるところもあった。ズボンが水を吸って重くなる。

美ヶ原を行く
茶臼山につくと夏を知らせるヤナギランが咲いていた。アカトンボが舞い、チョウチョウがザックにとまる。前方に美ヶ原が一面に広がっていた。茶臼山から少し下り、登り返すと美ヶ原の一角に登りつく。
入道雲が湧き上がり、高原を雲の影が横切っていく。草原の道の脇には、もうマツムシソウが咲いていた。塩クレ場から左に美ヶ原の最高峰王ヶ頭、右に牛伏山。その間に草原が広がり牛が放牧されていた。
王ヶ頭の山頂には電波塔が立ち並びやや風情に欠けるが、正面に槍ヶ岳から南岳の稜線がウッスラと眺められた。残念ながら穂高連峰は雲の中だった。高原荘ホテルのソフトクリームが美味しいとか。展望もそこそこに、みんなホテルのロビーに飛び込んだ。

王ヶ頭 美しの塔
観光客の多い草原の道を美しの塔へ。塔の正面にある尾崎喜八の詩「美ヶ原溶岩台地」の碑文は長い歳月の間に変色し、汚れもあってとても見にくい。「登りついて不意にひらけた眼前の風景に/しばらくは世界の天井が抜けたかと思う。」クルマで登ってきては、この感動を体験することは無理かもしれない。
明日、宝剣岳と木曽駒ヶ岳に登るため山本小屋に待機していたバスで駒ヶ根の早太郎温泉に向かう。駒ヶ根ICで降りると山々の間から宝剣岳がチラッと眺められた。
8月9日(土)宝剣岳
駒ヶ岳ロープウェイはわずか8分足らずで、標高2600mの千畳敷につく。駅の温度計は19度、暑さとは無縁の別天地である。駅を出ると千畳敷カールを、岩肌も荒々しい宝剣岳から浄土乗越、伊那前岳の稜線が取り囲んでいる。

千畳敷カール
足馴しをかねて剣ヶ池まで下る。ボンヤリとだが、甲斐駒ヶ岳から仙丈岳、端正な姿の北岳、間の岳、農鳥岳、塩見岳、荒川岳など、南アルプスの重厚な山並みがつらなっていた。浄土乗越への登山道は観光客も混じり渋滞がつづく。ハクサンイチゲやチシマギキョウが、登りの苦しさをやわらげてくれた。
宝剣山荘にザックをあずけ宝剣岳の登攀にかかる。危険な場所にはクサリやロープが取りつけられられている。狭い山頂から下をのぞくと千畳敷カールが広がり、その高度感が素晴らしい。登り終えた宝剣岳を見上げ、三ノ沢岳や遠くに空木岳を眺めながらのランチタイムは、至福のひとときである。

宝剣岳へ
鎖場 宝剣岳から木曽駒ケ岳を望む
中岳の山頂につくと頂上山荘をはさんで木曽駒ヶ岳が大きい。頂上山荘から駒ヶ岳に登りはじめたが、雷鳴が聞こえてきたので山荘に引き返す。1時間ほどしてすさまじい雷鳴と雨、そしてヒョウが降ってきた。
山荘の鉄骨が放電をはじめ、バシッとこれも恐ろしげな音をだし、登山客から喚声があがる。ズブ濡れになった登山者が震えながら何人も飛び込んできた。
5時の夕食が終わると、なんとなく手持ち無沙汰だ。雨も小降りになったがまだ降りつづいている。食堂で仲間たちと軽く寝酒を楽しみフトンにはいる。
12時半頃目が覚めて外にでると、天の川の中ほどに七夕の織姫星ベガと牽牛星のアルタイ、はくちょう座のデネブが大きな三角形が目につく。中岳の左肩に星がひとつ流れた。
8月10日(日)木曽駒ヶ岳
満天の星空がいつの間にか姿を消し、東の空に金色の混じった赤い雲の帯が現れてきた。八ヶ岳の上から太陽がゆっくりと昇ってくる。
軽く体をほぐしてから、木曽駒ヶ岳の山頂へ登りはじめる。左手に大きく裾野を広げた御嶽山が天に向かってせり上がり、右手には分厚い雲海が押し寄せている。石の積み重なった登山道の傾斜がゆるみ、2956mの木曽駒ヶ岳山頂についた。

木曽駒ケ岳山頂
南アルプスは逆光のため黒く沈み、北アルプスは乗鞍岳らしきものがかすかに見えた。朝日を浴びた仲間たちの顔が登頂の喜びで輝いている。たっぷりと展望を楽しんで、ハエマツとシャクナゲに囲まれた緑の尾根を馬の背から濃ヶ池へとくだっていく。ウサギギクやヨツバシオガマが朝露に濡れていた。

山頂からの降り
右下に濃ヶ池が見えてきたが、分岐点までの下りはいやになるほど長い。西駒山荘に泊ったという女性3人組と、若い男性の4人組とすれ違う。昨日までと比べると、あまり人と会わない静かな山歩きだ。
分岐点から尾根と分かれて濃ヶ池へ登り返す。池の彼方に天狗山荘の赤い屋根と宝剣岳が見える。池の周りにはクロユリやミヤマキンバイ、ハクサンフウロ、チングルマなどが、アルプスの短い夏を謳歌するように咲いていた。

濃ヶ池
疲れも出てきたせいか、駒飼の池までの登りはきつい。ホソバトリカブトやミヤマホツツジ、グンナイフウロに励まされ、木の梯子を二つ越えると駒飼の池についた。天狗山荘がすぐ近くに見えている。雪渓の雪解け水が冷たい。
ここで最後の休憩をタップリとり、浄土乗越へゆっくり、ゆっくり登っていく。浄土乗越から千畳敷までの下りは現金なもので、登ってくる人たちの苦しそうな顔がウソのように思える。
ロープウェイの待ち時間が1時間以上もあるので、キンキンに冷えた缶ビールでとりあえず乾杯。ロープウェイ、バスと乗り継ぎ、待望の「こまくさの湯」で汗と疲れを洗い流した。
玄関に入る時ポツポツと雨が落ちてきたが、露天風呂に入った途端、バケツの水をひっくり返したような大雨となった。雨のしぶきに打たれながらの露天風呂も、また楽しいものだ。
湯上りのビールでお互いの健闘をたたえ、頂上山荘の雷や宝剣岳の岩壁登攀などの話で大いに盛り上がった。登りの苦しさも、ここでは楽しい思い出話となる。
天候に恵まれ、たくさんの感動と思い出を与えてくれた3日間の山旅が、終わった。
(文、写真:小林利秋、ブログ「山小屋の灯」から要録)