獅子舞の夏 2009
           
                                     

                 
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                        継承の夏 

        【各演目の内容説明は、下名栗諏訪神社獅子舞保存会発行の小冊子より引用させていただきました。】


  今年もまた、獅子舞の季節が来た。
  強い日差しが照りつける晩夏の杜、蝉時雨の降り注ぐあの杜で今年も勇壮な神事の獅子舞が執り行われる。
  そして、わたしは今年もまた、一年遅れの獅子舞の物語を書こうとしている。
  “継承の夏”下名栗の人々の一夏の物語を…

    1.2009年 夏

  わたしは、7月に入った頃から、獅子舞の日を指折り数えて心待ちにしていた。
  昨年は、長雨にたたられた夏だった。獅子舞の2日間も、激しい雨に見舞われて社務所での演技を余儀なくされたが、
  そんな天候も吹き飛ばすかのような白熱の演技に、観客たちは魅了され陶酔した。
  そして、下名栗の人々の絆の深さに爽やかで熱い感動をいただいたのだった。

           

              下名栗諏訪神社は、深い杉木立ちに囲まれ、静寂に包まれている

  昨年の事を思い起こしながら、ひとりひとりの獅子舞役者さんたちの顔が浮かび、下名栗の人々の顔が浮かぶ…
  一年経っても鮮明にあの感動が蘇ってくるのは何故だろう。
  そんな事を考えながら、ずっと、心の中で暖め続けた雨の獅子舞“絆の夏”を一気に執筆していた。 
  あの感動を書き綴るのに、わたしには一年と言う時間が必要だったようだ。

           

               獅子舞の頃には百日紅の花が晩夏の季節を彩っている。

  今年は、仕事の関係で前日の獅子舞を見ることが出来なかったので、日曜日の獅子舞は最初から最後まで見たいと思い、
  張切って早朝に出かけた。
  お祭りの朝の雰囲気はいいものだ。清々しい夏の朝の空気の中に、これから始まる祭りへの期待感がどんどん高まってくる。
  それぞれが自分の役割の中できびきびと動き、この日に向かって培ってきた事への充実感に、大人も子どもも、みな嬉々と
  して、目を輝かせ笑顔が零れ素敵な顔をしているのだった。

      

                    大人も子どももみんないい顔をしていた。

       

  わたしは、お名前を知らないまでも、顔見知りとなった獅子舞役者さんや、ささらっこ、笛方の人、保存会の重鎮の方々などの
  元気なお顔を拝見しつつ、今年もこうして下名栗の人々にお目にかかれたことをしあわせに思った。

    2.お宮参り・御幣懸り

  まず、社務所の中で神事が執り行われる。獅子舞の安全を祈願して神主さんが祝詞をあげる。
  人々は一同に会し、頭を垂れて祈り、そしてお神酒が振舞われたのだった。

        

  昨年、保存会の会長さんから伺った様に、今年はささらっこたちの衣装が変わったようだった。
  保存会の方に伺ったところ、今年は絽の振袖を12着作ったそうだ。今までの着物は、暑くて、ささらっこたちが
  可哀想だったので風通しの良い素材の絽にしたので、だいぶ涼しくなったそうだ。

  また、昔の着物を参考にして振袖にしたので、ササラが回る(カラダをひねる)時、振袖が開いて華やかになった
  そうだ。特に、顔を隠している水引き(赤い布)が、風通しの良い絽になったので、風合いも良く、薄くて透けて見える。
  今まで、ささらっこたちの表情はうかがえなかったが、今年はその表情が薄い布を通して見えるようになったのだ。
  これは、見る側にとって、とても画期的なアイデアだと思えた。少女たちの真剣な眼差しを見ることが出来るのだ。
  (ただし、これは今年限りの事で、来年以降は、また元に戻されると言う事だった。)

  また、昨年の熱演で、獅子頭の一つ金色の獅子の角が折れてしまった。
  今年は、獅子頭も新しく塗り替えられたそうだ。獅子頭の後頭部に記録された年号によれば、文化5年(1808)に造立、
  以後8回修繕・塗替えされ、それぞれ年号は、天保12年(1841)、嘉永7年(1854)、安政5年(1858)、明治16年(1883)、
  明治45年(1912)、戦後になって昭和31年(1956)、平成8年(1996)、そして平成21年(2009)の 計8回だそうだ。
  200年以上の獅子舞の歴史の中で、とても少ないと思う。それほどに獅子頭は大切に保管されてきたのだろう。


        

  次に、一同でのお宮参りの神事に移る。
  この時、太刀を持つ人が、クライマックスの“白刃”の舞いのなかでの太刀持ちということになる。
  今年の太刀持ちは、ああ、あのお二人なんだ!わたしは、お話した事はないが、顔見知りとなった二人の獅子舞役者さんの、
  昨年の役どころを覚えていた。
  お二人とも、この獅子舞を支えていく中堅の役者さんだと思う。いつも素晴らしい演技を見せてくださる。
  今年も多いに期待できると、何だか胸がワクワクしたのだった。

        

         

  厳かにお宮参りの儀式が終わり、そのまま、御弊懸りの舞が始まった。
  三匹の獅子舞い役者たちは、お宮の階段を降りていく場面から、もう、獅子になりきっていた。
  獅子頭を振り、ダイナミックに舞いながら階段を降りていく姿、打ち鳴らす太鼓の音、篠笛の一糸乱れぬ音色、いよいよ、
  今年の獅子舞の幕開けだ。わたしは高揚する気持ちを抑え、獅子舞役者たちの舞の全てを見逃すまいと見入ったのだった。

        

             ささらっこが舞う度に、長い振袖と、美しい帯が大きくふわりと舞うのだった。

        
            
 この御弊懸りは、女獅子をリード役に三匹の獅子が織り成す構成美が素晴らしく、数ある風流獅子の中で比類ないものだと言う。
 毎年、熟練の獅子役者が舞う。 その磨きぬかれた技のメリハリと阿吽の呼吸、絶妙の流れに魅了された。

      

      

       流れるように美しく、三匹の獅子が踊り、舞い、そして勇壮に狂う、下名栗の獅子舞の真骨頂だ。

  朝の爽やかな空気と、杉木立から、差し込む木洩れ日とが、なにか不思議な異空間を作り出しているような気がした。
  すると、一頭の白い蝶が、何処から現れたのか庭場の上空にひらひらと舞いながら、まるで獅子舞を見て回るように庭場を
  一周して、何処へとも無く飛び去っていったのだった。
  不思議なことに白い蝶が飛んでいた間だけ、篠笛の音色が一瞬遠ざかっていくような錯覚に落ちたのだった。
  なぜだか判らないけれど、ふと…あの蝶は、歴代の獅子舞役者さんなのではないかと思った。

            

               清々しい早朝の空気の中に流れわたる篠笛の音色はとても美しい。


       

         早朝ならではの清列とした空気と、息の合った素晴らしい演技に、観客はシーンと静まった。


            

                 舞い終わった安堵の後ろ姿を美しいと感じた。お疲れ様でした。

       

             トップバッターの重責を見事に舞い終わった達成感に、笑顔がこぼれる。

       

              ささらっこたちも、やり遂げた嬉しそうな笑顔に包まれた。


    3.花懸り


  次の演目は、花懸り、3匹の獅子がお花見に行って、喜び勇んで、楽しく遊ぶ様子を演じている。
  獅子舞の基本的な所作を中心としているので、獅子を始めた者が一番最初に舞う芝だという。
  毎年、ささらっことしてデビューする、一番年少の少女たちが舞う演目でもあるようだ。
 
  今年も、小学二、三年生になったばかりの少女たちが舞う。
  昨年、ささらっこデビューした少女たちが、真剣な眼差しで一生懸命、お世話している姿が、なんとも微笑ましい。

        

  今年、ささらっこデビューする二年生の少女は、緊張した面持ちで、一心に前を見つめている。
  きっと、不安でいっぱいなのだろう…ちいさな胸のうちが見てとれるような気がして何だかとてもいじらしくなった。

  この少女は、獅子舞役者のお父さんと同じ庭場に立つことになるようだ。
  下名栗の獅子舞では、時々、このような親子の競演を見れることもある。
  娘のデビューを同じ庭場で一緒に舞えるお父さんは、きっと感慨深く嬉しいことだろう。
  そして、その一部始終を見守る若いお母さん、幼い妹や、まだよちよち歩きの赤ちゃん。
  やはり獅子舞役者さんだったであろう、おじいちゃん、そして二人のおばあちゃん。 

         

  舞が始まれば勇壮に踊り狂う、黒い獅子頭の小太夫役のお父さんは、緊張している娘の肩に、そっと手を乗せた。
  そんな家族を囲んで、気の置けない仲間たちが、ちょっとおどける。さりげなくて明るいみんなの笑顔が輝いていた。
  素敵なシーンだと思ってシャッターを押させていただいた。

        
          
  来年か再来年には、年下の妹もささらっこデビューすることだろう。その初舞台もまた、お父さんと一緒なのだろうか。
  その時にはきっと、今、緊張の真っ只中にいるおねえちゃんは、やさしく妹を励ましていることだろう。
  そして、末っ子のよちよち歩きの赤ちゃんが、いつの日か若い獅子舞役者となって、お父さんと競演する日が来るのだろう。
  毎年、夏が巡って来る度に、こうして成長していく家族の絆をそっと見守らせていただくことが出来たならしあわせだと思った。

        


  きりりと鉢巻を結んで、じっと前を見つめる若々しい獅子舞役者がいる。
  彼は、今年、獅子舞役者として初舞台を踏む二十歳の青年だ。

        

  赤い女獅子の獅子頭を被った姿は、しなやかな若獅子のように見える。
  緊張を解すためと、これから舞う激しい舞いに備えて、獅子頭を被ったままの姿でウォーミングアップを始める姿は、
  何だか微笑ましくて思わず笑いを誘うのだった。

        


  そして、いままでみんなと談笑していたベテランの獅子舞役者さんは、一瞬、真剣な眼差しになって鉢巻を結んだ。
  おもむろに金色の獅子頭を被った。なんとも凛々しい、その眼差しが素敵だった。

       

  いよいよ笛方を先頭に、庭場に向かっての道行が始まる。
  仲間たちに見送られ、初舞台を踏む若獅子とささらっこの緊張の糸もピンと張り詰めていることだろう。

       

       

        庭場に立つと早速演技が始る。そろいのステップで足踏みし、太鼓を打ち鳴らし、バチを鳴らす。

   
       

      

            飛んだり、跳ねたり、息の合った気迫の演技はさすがベテランの獅子舞役者だ。


       
  
  若武者のような女獅子もしなやかに、勇壮に、ベテラン役者に引けをとらない演技で庭場を見守る人々を魅了した。

      

  小さな手で、ささらを握り締め一心にかき鳴らす、ささらっこたちも頑張った。
  一生懸命、演技をする姿に思わず、がんばれと声をかけたくなるのだった。

     

  そして、笛方の少年たちも、伸びやかで素晴らしい演奏を聞かせてくれた。
  今年、獅子舞役者としてデビューした青年も、小学6年から笛方に入り、中学・高校と続けて、笛をほぼ完全にマスターして
  獅子役者になった。 小学生の頃から笛方をしていた人の中から、初めて獅子舞役者が誕生した事になるのだそうだ。
  獅子舞を一緒に見ながら共にやってきて、流れもわかっているので、とても望ましい事だと言う。
  これからも、この少年たちの中から、若い獅子舞役者が巣立って行く事だろう。

     

  下名栗の獅子舞役者さんを引退された方の中で、戦前から獅子舞をやっていた長老の方がお二人いらっしゃるそうだ。
  お二人とも健在で、お一人が大正7年(1918)11月生まれ90歳、もうお一人が大正11年(1922)10月生まれ86歳。
  今年は最長老の方はいらっしゃらなかったが、86歳の方が嬉しそうに獅子舞を眺めていらした。
 、大正11年生まれと言えば、わたしの父と同じ生まれ年だった。父が生きていたら、この方と同じ年齢になっているのだ。
  そう思うと感慨深かった。そして、来年も、また変わらずにお元気な姿を拝見させていただきたいと思った。
  改めて、先輩を大切に敬う名栗の人々の絆の深さを素晴らしいと思う。

     

  舞が終わり、獅子舞役者やささらっこたちが社務所に戻ると、仲間の笑顔が迎えてくれた。
  初デビューのささらっこも無事大役を果たした。昨年デビューした三人のささらっこも駆け寄って花傘を取る手伝いをしている。
  小さな手が差し伸べられる姿は微笑ましい。

      

      

  そして、おじいちゃんが近づいて、花笠を手に持ちながら、やさしく覗き込んで、二言三言、言葉をかけている。
  すると、やっと、緊張の糸が解けたのだろう、初デビューのささらっこの顔に、ようやく笑顔が戻った。
  その瞬間のなんていい笑顔だったことだろう。

      

  こんなに小さいながらも、自分の役割を、しっかりやり遂げようと言う責任感を持っていたのだ。
  小さな子どもたちまでも、こんなに真剣に取り組んでいる。こういうところが、この下名栗の獅子舞の凄さだと思った。
  それは、きっと大人たちや年上の子どもたちの姿を見て自然と身について来たものなのだと思う。
  獅子舞の技だけでなく、想いも継承されていく。素晴らしいことだと思ったのだった。

     
       

           金色の獅子のお父さんのもとに駆け寄った家族たち、子どもたちの誇らしげな顔がいい!

      

              初めての獅子舞を無事終えて、若獅子は、寡黙に佇んだ。

       

          安堵の表情になったおねえちゃんと、いつかは、若獅子となるあかちゃん。
  

    4.三拍子

  次の演目は、三拍子、この舞は、三人の獅子舞役者と4人のささらっこが全ての動作を同じように舞う。
  その息の合った技の素晴らしさが見所だと言う。いつも、ベテランの獅子舞役者が携わる芝だ。
  この芝では、謡と謡いとの間に特徴のある所作があるなど、他の芝とは異なった構成になっているのだそうだ。
  そして、この芝では、ささらっこの立ち位置が変わり、ささらを担いだり、大きく移動したりする動作が加わる。
  全ての芝のなかで、これほど、ささらっこが動く芝は他にはない。技術と経験が必要になってくる。
  そこで、ささらっこも年長の上級者の少女たちが舞うことになっている。

       

              息の合った演技を見せてくれそうなベテランの獅子舞役者さんたち。

       

                   ささらっこの少女たちもまた、上級者揃いだ。

        

                頑張ろうね!と手を取り合っている。こんな仕草も可愛い。

  今年の三拍子の金と黒の獅子を演じるのは、昨年、太刀持ちを受け持ったお二人だった。
  わたしは、雨の獅子舞のあの迫力ある演技を思い出していた。
  女獅子を受け持つのは、熟練の獅子舞役者さんだった。この下名栗の獅子舞をリードする立場の方だと思う。
  わたしは、今回で4回、下名栗の獅子舞を見せていただいているけれど、いつもそれぞれの芝を厳しい眼差しで見つめ、
  細かいところへの気配りや配慮を怠らない現場監督のような方だと思っていた。
  きっと素晴らしい演技を見せてくださるに違いないと、とても楽しみになった。

       

          笛方を先頭に、庭場へと入ってくる。わたしは、カメラを握り締める。緊張する瞬間だ。

       

  思っていた通り、三人のベテランの獅子舞役者さんは、まるで3匹の獅子に化身したかのごとく、ぴったりと息の合った
  素晴らしい舞を見せてくださった。

      

 
                 

                          
  勇壮かつ、豪快さが身上の下名栗の獅子舞の中にあって、それだけではない優雅さも見せてくれる貴重な芝だと思った。
  その舞の淀みない流れは、本当に美しいものだった。

   
       


       

  そして、ささらっこたちの舞いも颯爽と潔い素晴らしいものだった。
  ささらっこたちの動作にあわせて、長い帯や振袖の袂が、大きく広がり、まるで花が咲いたように美しいのだった。
  薄い絹の赤布をとおして、きりりと凛々しい少女たちの真剣な横顔が浮かぶ。
  さすが年長のささらっこたちだ、彼女たちもまたこの地区の獅子舞を支える大きな柱のひとつなのだと思う。

       

       


       


       

  わたしたち観客は全ての所作を見守りながら、白昼夢を見るようにうっとりと引き込まれてしまったのだった。

  この三拍子で午前中の芝は滞りなく終わった。
  記念撮影に笑顔を向ける少女たちの顔は、無事やり遂げた安堵の表情に輝いていた。

       

  ベテランの獅子舞役者さんを囲んで、家族の方たちが笑顔で寄り添っている。
  きっと頼れるお父さんなのだと思う。お孫さんだろうか、可愛い赤ちゃんも登場した。

            

  男の子なのかな?自分の体よりも大きな、真っ赤な獅子頭を見ても怖がることもなく、一心に見つめている。
  そして、手を伸ばして触ろうとしているのだ。赤ちゃんの関心事は、この獅子頭だけなのだった。
  名栗の子どもたちは、こんな小さな時から、獅子舞役者になることを運命づけられているのかも知れないと思った。
  微笑ましい光景だった。

       
       

             この赤ちゃんも、いつか、下名栗の獅子舞を継承し、担っていくだろう。
     

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 前編終了
 後編1へ続く